交響曲 第3番

夏へ向かう春への賛歌

H.M.Dockyard Monaca工廠は、いくらか気温が低い地方にあるので今年は桜も椿も菜の花も一緒くたに咲いている有様でまるで東北か信州のようでそれはそれでなかなか楽しい!
で、そんな気候的なこともあって今聴いているのが、マーラーの交響曲第3番。1番*1、2番*2と進んできた若いマーラーの音楽への造詣がオリジナルなものに確保された最初のシンフォニー。
ぱっとみると、冗漫に感じるかもしれないけど、いやいや全くそれは誤解だと思います。ラフマニノフエルガーなどもそうだけど、曲想にメロディーが豊穣な音楽は、短い動機を積み上げた場合と比較してどうしても時間軸が引き延ばされたように感じるだけで、それは音楽価値を下げるようなものではないと云えるはず。故に単に好みの問題で、ワンセンテンスをきちんと掴んでみるとマーラーの他の交響曲に比してかなり引き締まった構築感を感じることが出来る、fismajar的にはそう感じるのです。

1楽章は、勇壮なホルンのトゥッティではじまり瞑想的なコラールを含むもので分解してみると全楽章で統一感を持たせる構成物をはらんでいます。
続く葬送行進曲と対照的な諧謔的マーチ、経過部に散りばめられた複雑怪奇なオーケストレーション、曲の長さも一楽章だけでも半端ではなく26分から30分近いというのも、まるでめくるめくパノラマのように展開して行くのでしかし長く感じさせることはないです。
本当にマーラーはオーケストレーションが凄いと感じさせてくれる!
2楽章は可愛らしいメヌエット「草原の花たちが私に語ること」。その名の通りやすらぎ感と楽しさが溢れています。この感じは後に「大地の歌」でも垣間見ることが出来る手法で実際動と静のコントラストが良いです。
3楽章はスケルツォ風の幻想曲といえます。ここでの白眉は中間部のポストホルン(信号ラッパ)による夕暮れの描写。金子建志氏の名著「マーラーの交響曲」によれば現実から幻想への飛躍という表現をされておりますが、まさに。
これを聴くと「天空の城ラピュタ」の前部での主人公少年パズーの朝のラッパを思い出させます。
4楽章はニーチェの「ツァラトストラはかく語りき」の詩編より

O Mensch! O Mensch!           おお人間よ!
Gib Acht! Gib Acht!            気をつけるべし!
Was sprict die tiefe Mitternacht?     深い真夜は何を語るか?
Ich schlief!        私は眠っていた!
Aus tiefem Tarum bin ich erwacht!   私は深い夢から覚めた!
Die Welt ----- ist tief!         世界は---深い!
Und tiefer -- als der Tag gedacht!    深いのだ、昼からを思うよりも!

O Mensch! O Mensch!      おお人間よ!
Tief! Tief!          深いのだ!
Tief ist ihr Weh!         世界の嘆きは深いのだ!
Lust-          快楽-
Lusut- tiefer noch als Herzeleid!      快楽は惑いよりも深い!
Weh spricht , Vergeh!        嘆きは言う,「失せろ!」と
Doch alle Lust will Ewigkeit,       しかし全ての快楽は永遠を欲するのだ
will tiefe,tiefe Ewigkeit.          深い、深い永遠を欲するのだ

7連符などを多用し波動的なたゆたう音響宇宙に響くアルトのソロが素晴らしい!
5楽章はうってかわって「鐘」を模した「ビン・バン」という児童合唱と「貧しい子供たちの物乞いの歌」を女声合唱で繰り広げる。「カッコウが私に語ること。朝の鐘が私に語ること。天使たちが私に語ること」この副題をみても一筋縄ではないマーラーのセンスを感じられるが、なにより瞑想的な4楽章の後のこの楽章のくったくない眩しさ、そして続く雄大な終楽章への掛け買いのない音楽。
6楽章・終楽章はもうおそらく古今東西こんなポジティブで感動的な美しい音楽はないと思うのです。静かにはじまるアダージョ。1楽章のホルン主題の変形が弦でたっぷりと歌われてやがて明暗を繰り返しつつ、一つの頂点を形作ると、「幻想的な飛躍」が245小節からたかだか7小節でまさに劇的に行われ、もう恍惚最大のトランペットによる主題が鳴り響きこの透明感といったら。。。そしてこの崇高な響きはそのまま雄大に全オーケストラによって歌われて2台のティンパニーのD−A−D−A〜の打ちで感動的に終わります。
この曲も私の一番のお宝です!


アバドの素晴らしい贈り物!
感動感涙できます!

マーラー:交響曲第3番

マーラー:交響曲第3番

*1:28歳の若さで書いた故、深みの点で弱い

*2:誇大妄想が前面に出ていて「まとまり」を欠いている