3つの交響的写生「海」

涼しげな音楽として一等はじめに上げたい曲としてはあまりにも有名なドビュッシーの「海」。
ドビュッシー印象派として一つの頂点をなす作品であるからして、ここでわらしごときがなにをか言わんや。
でも、「海」と称されているのに素通りできない事情もありますので、ご勘弁。

1903年8月にはじめられた作曲は1905年3月完成。同年10月に初演。作曲者は43歳、スキャンダラスな色恋沙汰、名声も高くなる、そう言う時期。
時にロシアの血の日曜日事件は1月、日露戦争日本海海戦は5月、ヨーロッパは英仏協商など比較的平和で、パリは芸術の都として栄えていた。翌1906年にはドレッドノートが竣工している。

閑話休題、3つの交響的写生という名のとおり、各部は3楽章で構成される。
1 海の夜明けから真昼まで
  暗い浜辺の海鳴り*1を思わせる低音が波が生まれるが浮き出してゆき、2枚リード楽器群を皮切りにホルン・コルネットへとつながれて行く夜明けの呼びかけ、そして壮大な夜明け、軽やかに流れて行く海流を思わせる経過部、やがてはっきりする海に対峙する己を思わせる主題、そして陽光煌めく正午の海原。めくるめく海の姿をたくさんのメロディーで次々につないで表現してゆくのが恍惚。
2 波の戯れ
  ミステリアスな主題をうちに秘めつつ、打ちては寄せる波、そして波と波がぶつかり合う姿、飛沫が上がり荒々しさもかいま見せる、華麗なドビュッシーの管弦楽法と和声が魅力的な楽章。
3 風と海との対話
  迫力有る低音の海の主題にややヒステリックな高音の風の主題が互いに変奏を繰り返しながらコントラストを描き、またはあるときは絡まり合いつつ流れて行くと、1楽章で現れた3連を含む主題がホルンで弱々しく提示され、やがて徐々にイニシアティブを取ってゆく。フルートとオーボエによるこの主題がやがてクライマックスで前楽章の主題を回想しつつ力強く歌われてフィナーレ。

どこもかしこも隙のない完璧性を誇る希有な名曲。スコアから響きが立ち上るかのような印象派と呼ばれるゆえんの美しいスコアも魅力的だ。

はまぞうさんは「牧神」をメーンタイトルにしてるけど、ジャケット見て分かるとおり「海」La Merがそれ。
アップテンポ気味が気持ちよし。
とわいえ、牧神も夜想曲もヨロシ。

ドビュッシー : 牧神の午後への前奏曲

ドビュッシー : 牧神の午後への前奏曲

*1:ここを聞くとき想起させられるのはコクトーの詩「耳」『私の耳は貝の殻 海の響きをなつかしむ』堀口大學