送別

*1
当直明けで眠い。ハンモックへ疲れて重くなった体をようやく持ち上げて目の前の灰色の天上を見つめた。そしてスカパフローでの短い別れのひとときを思い出した。

「大丈夫、僕はかならず帰ってくる。だから心配しないで!」
なんと強がりに言っても、其れは空虚なもので何の保証もないものだった。彼女は自分の涙をぬぐってから黙って、その真新しい臙脂色のハンカチを差し出した。僕も涙ぐんでいたのに違いない。情けないと思われても仕方なかったろうが溢れそうになるのをこらえることは出来なかった。
「信じている。」
まっすぐに見据える彼女の暗い藍色の瞳は、僕を貫いて胸の中を焼き焦がしていった。

今、それを思い出しながら、ぼくは目蓋を閉じ改めて生きたいと望むようになった。

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