目が覚めると
朝靄の中に
もう何世代も違う妹たちが ゆっくりと目の前を進んでいく
私が ここに繋がれて もうどれくらい経つのか
本当のところ
忘れてしまった
私の双暗車は既に無く 自慢だったディーゼルエンジンも今は動くことはない
美しくも気高い船室は 色も褪せ 華やかだった頃の幻想を思い起こさせるのみ
船艙に積みには無く デリックは何本も残っていない
錨は引き揚げられることもなく 羅針盤も方向は指せず
無線室は沈黙し 厨房に湯気立ち上ることもない
私はなぜ残ったのだろう
あのころの仲間はもうほとんど消えてしまった
奇蹟のように私は残され
いつでも大切に想ってくれる沢山の方々が 命の危機から救ってくれた
しかし 人は忘れる
私を愛してくれた人たちも少しづつ消えていってしまう
時間は夢も記憶もゆっくりと確実に 彼岸へとみんなを追いやってしまうから
ただ
ただ
それでも残るもの それは「誇り」のみ
決して滅しがたき「誇り」だけが 今や私の唯一の友人かもしれない
そう 私は誇り高き北太平洋の貴婦人
「氷川丸」
そう 私は誇りを未来に伝える者
「氷川丸」
そう 私は「氷川丸」
(完)