「 歌う船 」

少女と宇宙と宇宙船 なんて素晴らしい取り合わせ

「歌う船」原題:THE SHIP WHO SANG は1969年に発表された女流SF作家の傑作で、以後この中で取り扱われている「殻人(シェルパーソン)」を扱ったいわゆる「歌う船シリーズ」が続刊されたのですが、わたしゃこの「歌う船」しか読んでいないので今回はこれだけを記しておきます。
件の「殻人」は、要するにサイボーグで、未来の行政機関「中央諸世界」によって身体的奇形であっても優秀な頭脳を持つ者を生命維持装置を伴う金属の殻の中に入れられ、そして育てられ、様様な機械とこの殻をシナプスで結びあたかも一個の人格が機械を扱うがごとく制御できるようにするテクノロジーであり、ヒロインの少女ヘルヴァは最優秀の「殻人」として最新鋭宇宙船XHー734に16歳で搭載され頭脳船という役務を与えられます。彼女は天性の芸術的音楽的才能から美しい歌を歌うことが出来たため「歌う船」として有名になるのです。
頭脳船は生ける人格を持つ宇宙船であり、偵察員=筋肉(ブラウン)と呼ばれる伴侶を持ち、恒星間を跨いだいろいろな任務を果たすのですが、少女は最初の伴侶ジェナンと熱い信頼と愛を育むつかの間、新星爆発に巻き込まれて最愛の人を亡くしてしまいます。
お話はこのジェナンとの最悪の別れを循環主題とし、ヘルヴァが宇宙船としての特性、殻人としての特性を幹に進み、様々な人たちと関わり合いながら、冒険、葛藤、喜び、悲しみ、戦いなどなど 冷たい宇宙船である多感な少女の成長を 力強くまさしくセンスオブワンダーで綴ってゆきます。もちろんSFとしてのスペクタクルも最高に血湧き肉躍るモノで、男臭いたくさんのSFのなかに瑞々しい女性ならではの説得力有る筆致のこうした作品は希有の存在と言えるのでは!?
もちろんこの美しいセンチメンタルな「歌う船」の物語は、情熱的な恋の成就で締めくくられるのでした、「恍惚」!

ヘルヴァの恋と冒険は、6篇のオムニバスです。
歌った船:ヘルヴァの殻人としての成長とジェナンとの出会い
そして急速に膨張してゆく恒星系での危険な救助と悲劇
嘆いた船:悲しみに打ちひしがれるヘルヴァと家族を亡くし心に傷を負った
療法士との関わり合いと伝染病の蔓延した惑星の危機を救う物語
殺した船:種族維持庁の人の受精卵を各惑星に運搬する任務を帯びたヘルヴァ
と女性偵察員との友情、そして死を祝福とあがめる異常な宗教惑星での活劇
劇的任務:ガス惑星に住む未知の知性とその持つ超テクノロジーの入手のため
知性が要求するのシェイクスピア劇、その上演へ向けてのヘルヴァの活躍と意外
な結末、新しい出会いと恋への予感
あざむいた船:人間的暖かみに欠けた偵察員と反駁、突如消息を絶つ頭脳船た
ち、そして犯罪者との果敢な戦いと。。
伴侶を得た船:数々の輝かしい戦歴を持ったヘルヴァは頭脳船として自由を勝
ち取るが中央諸世界は新しい超光速理論エンジンをタネにヘルヴァを留めようと
するが。。。そして最愛の求める伴侶をついに。


歌う船 (創元SF文庫 (683-1))

歌う船 (創元SF文庫 (683-1))

原書はこちら
The Ship Who Sang

The Ship Who Sang