「陸影を見ず」

人生とは何だぁ〓(by 大槻ケンジ)

忘却の彼方に忘れ去られて行く事象を何かの形に残しておきたい。私は、人生とはそういう自分の軌跡を意識するともしないとも残して行くのが人間たるものであり人生であると思う。自分も含め人は、死ぬときに何を思うのだろうか?
曽谷綾子は原子力船「むつ」かこの核燃料運搬船「あかつき丸」を小説として記したいと願っていたとのことで、そのうちの後者のみがこうして小説化できたのは本当にありがたい話である。しかも一流の海洋小説としてだ。
ストーリーは、高速増殖炉に使用するプルトニウムをフランスから日本の東海村まで運ぶ60日の無寄港航海を芯に、核燃のスタッフとしてその運搬に責任者の一人として乗り込む輸送班長・加納の家族、友人、組織、環境保護団体や国の思惑、そして自分とそれぞれのポジションを向かい合って生きて行く様を、到着までの時間を削り取るような誠に硬質な文体で描いて行く。
海洋冒険小説ではないので、血肉沸き踊るような描写は一切無いが、巡視船「しきしま」海上保安庁との確執やグリーンピースの抗議船との追跡行、マスコミなどの無遠慮な取材、極秘行動による乗組員たちの行動制限と訓練など見所は多い。
そして、なにより伏線に病床に伏せる婦人と行き分かれた息子との邂逅を計る加納の洋上でなにも手を下せないやるせなさ、そしてラストの何ともいえない「人生」への問いで締めくくられる「恍惚」
こういった海洋小説があることを日本人が示したことについて、我々は海外に大いに誇るべきではないだろうか。

この小説には事実以上のフィクションによる「現実」がある。。。
陸影を見ず (文春文庫)

陸影を見ず (文春文庫)


アドミラル・ナヒモフのみチマチマとマスキングは進行中。。。。上甲板だけで1日かかった。