「南極交響曲」(7番)"SINFONIA ANTARTICA (No.7)"

まだまだ暑い夏をやり過ごすために少しでも寒い曲がヨイカト(^^;

文字通り南極探検を扱った交響曲。元ネタは、「南極のスコット」という映画の音楽でありサントラみたいなものと思いきや楽曲様式こそ従来のシンフォニーによっていないけど、組曲と言うよりは「交響曲」と呼ぶにふさわしい緊密な構築の音楽となっている。
エピソードはイギリスの探検家R・スコットの1912年に行われた南極探検の悲劇を扱っている。スコットについては、ロバート・スコット - Wikipedia
楽器編成に特徴があって、3管編成のフルオーケストラに 多数の打楽器、チェレスタ ハープ ピアノ オルガン ソプラノソロと女声合唱 そしてウィンドマシーン 「アルペンシンフォニー」とか 「惑星」のような 有る意味スペクタクル作品には こういった編成が必要なのかも。
映画自体は1948年8月公開、この交響曲への再編*1は1953年で初演は同年1月14日マンチェスターでバルビローリ/ハレ管にて行われ大成功を収めた。全5楽章となっている。
各楽章にはサブタイトルとそれぞれにふさわしい引用句を当てており、印象を深めている。
1.前奏曲  Andante maestoso*2
3拍子を基調に3小節+5小節というなにか一筋縄ではいかない雰囲気を持つ陰鬱な行進で始まる。この曲全体に言えるのだけど、動きのあるテーマに対し和声がピアノ・ハープ・オルガンなどを伴う極めて分厚い音響で南極の厳しい自然というか超越された力を表しているように聞こえる。イントロは行進のテーマを輝かしく鳴らしていったん終わるが、続くレントでは細かいシロフォンなどの動きの上にたゆたうユニゾンの不安主題が覆い被さり、さらにブリザードを思わせるソプラノ及び女声合唱のヴォカリーズがミステリアスな雰囲気に拍車をかける。いやはや、涼しいを通り越して寒い、ブルブル。ロンド・ソナタ形式風にテーマは展開・再現し最後は行進テーマが何か心に引っかかるような妙に輝かしい終わり方。格好いいけど。(^^;
2.スケルツォ Moderato*3
爽快な始まりは多彩な楽器群を駆使して印象派風。冒険者達の期待と南極海のパノラマを思わせる。ペンギンや鯨などの出現に合わせた楽しげな楽章。RVWの管弦楽法の素晴らしさが堪能でき恍惚。
3.ランドスケープ(景色)Lento*4
うって変わって厳しい南極の景色を描く。女性合唱のテーマが遠くフルートで警鐘のように響く中、速度記号がアンダンテになると細かい動きを奏でながら音楽は静かに進んで行くが、スコット隊は不安な行進を続けるかのようだ。そして危機を告げるトゥッティ!再びレントになり恐ろしい危機をピアニッシモで全管弦楽とオルガンによる分厚い単旋律の行進、そして氷山の出現(F-Es-F-Des-G主題)が低くうなる。危機を避けるかのように再び細かい動きで進むが、再度低い単旋律、氷山主題、細かい主題を繰り返すが、遂にスコット隊はストップ全開のオルガンによる巨大な氷山主題に捕まる。そして冒頭の暗い南極の景色へと戻り憂鬱な気分のままアタッカで次楽章へ。
4.インテルメッツォ Andante sostenuto*5
ハープによる儚げなアルペジオの中冒頭の3小節+5小節主題の変奏による子守歌をオーボエがもの悲しく歌い上げる。2回繰り返すと安らぎと不安の入り交じる中間部に入り探検のつかの間の休息を思わせる。次いでペザンテで不気味で不安な曲想となり3小節+5小節主題が憂鬱に繰り返され前途の多難なことを暗示させるが、再び子守歌が現れて静かに消える。
5.エピローグ Alla Marcia,Moderato*6
堂々たる3小節+5小節主題のファンファーレで始まり困難に立ち向かうスコット隊の最後を描いて行く。非常に旋律が豊かでまたトーンクラスターをリズムカルに用いるなどオーケストレーションのうまさが際だっている。演奏する方もなかなか楽しめそうだな。3小節+5小節主題は最初は華やかであったが、徐々に短く断片的になり、時折力を持って吹き上げるが、そこへ女声合唱が入ると更に断片は弱まりそして3小節+5小節主題は輝かしく最後の輝きを見せるがすべてを歌い上げることが出来ず力尽き、トランペット・トロンボーンによる命の絶える和音*7が鳴ると女声合唱が覆い被さって破滅を歌いウィンドマシーンが重なって探検隊の破滅後の不毛な極地とブリザードを表してゆっくりと消えて行く。

少しテンポが速いけどドラマティックで素晴らしい演奏。
8番も秀演!

プレヴィン・LSOもお薦め!こちらは楽章間に朗読入り

ところで今年は日本の南極観測50周年に当たる年。
昭和基地NOW!!
明日これに関係するものをアップしよう!

*1:周囲の交響曲への編集を求める声が大きかったらしい。

*2:引用句:シェリー「鎖から解かれたプロメテウス」より"永遠に希望薄き悲しみに絶えること"

*3:引用句:「詩編」第104より"そこに船が走り

*4:引用句:コールリッジ「シャムニ峡谷の夜明前の賛歌」より"汝、氷の滝よ"

*5:引用句:ジョン・ダン「昇る日」より"愛は四季を知らず"

*6:引用句:スコット「遺筆」より"私はこの旅行を後悔しない"

*7:これはマーラーの6番のフィナーレの再末尾Amajar-Aminor主題にインスパイアされているのではないかと愚考。